近年、集中治療領域における緩和ケアは、ICUサバイバーの患者・家族が経験する身体・認知・精神障害による苦痛に伴うQOLの低下等のエビデンスが明らかになり、終末期に行うケアから生存が期待される患者・家族のニーズを包含したケアへと拡大してきています。このような時代背景から、集中治療室における緩和ケアは、診断や予後に関係なく、対象の緩和ケアニーズに基づいたPerson-Centered Careとして位置づけられ、緩和ケアの構成要素には、苦痛症状の緩和のみではなく、患者中心の意思決定支援、患者・家族とのケアの目標に対する効果的なコミュニケーションといったケアが主要な構成要素とされています。しかしながら、集中治療領域における緩和ケアは、必要な対象にタイムリーな提供がなされていない現状にあるのではないでしょうか。そこで、本セッションでは、集中治療室入室時からはじめる緩和ケアー緩和ケアとACPを統合した全人的ケアへ－と題して、集中治療室に入室した対象のニーズに応じた質の高い緩和ケアをタイムリーに実践するために必要な知識・スキルについて学び、集中治療室における緩和ケアのあり方を考える機会としたいと思います

企画担当委員：伊藤 真理

日本クリティカルケア看護学会誌には、20年にわたり多くの研究成果が公表されてきました。これらの研究の中には、エビデンスレベルの高い研究も散見される一方で、その研究成果が臨床実践に広く活用されているとは言い難い現状があります。このようなevidenceとinterventionのギャップに対処するために、保健医療分野では実装研究が着目されています。実装研究とはエビデンスレベルに基づく介入（evidence-based intervention; EBI）を効果的かつ効率的に実践の場に組み込むために、そのプロセスや定着させるための方法を開発し、検証することを目的とした研究です。これまでクリティカルケア領域で積み重ねてきた研究を、これからの臨床実践に生かすためには、EBIの実装化について検討する必要があります。本シンポジウムでは、クリティカルケア看護学会における研究動向を踏まえたうえで、実装研究の実際と課題について臨床実践家、研究者の立場から発表いただき、今後の展望について検討したいと考えます。

企画担当委員：菅原 美樹

看護基礎教育と臨床現場のギャップを埋めるためのツールとして臨床判断モデルに関心が高まっています。同じ事象を目の前で見ても同じことが見えているとは限りません。臨床で活用できる知識があるかどうかによって、目の前で見えていることの意味付けが異なります。正解を探すことではなく、患者さんにとってよりよい実践を探すことの重要性に気づくには、患者さんの状況、自分自身の状況、周囲の状況の認識が不可欠です。動的な臨床状況を知的に解釈し、判断し実践することは、まさに臨床現場で学ぶことの醍醐味ですが、初学者にとってはイメージしづらく困難なことです。このセッションでは、看護基礎教育から現任教育まで、シームレスに臨床判断モデルを活用して、看護実践の思考をどう育むのか考えたいと思います。

企画担当委員：伊藤 真理

人間は、"生きる”という営みにおいて、「より善く」や「しあわせ」というものを志向する生き物である。どのような状況にあっても、人が生きることを支える/手助けする営みにおいては、自分には知覚できない”他者の世界”に足を踏み入れ、かかわることになる。この”他者の世界”にかかわるときに最も基本となるのがケアリングであり、これは日常ケアの倫理の芯（しん）のようなものである。つまり、看護師として他者にかかわるときには、その人の体験する世界へと関心を向け、その人の思いやニーズはなにか、何がどうあると「善い」のか、「しあわせ」につながるのかなどを意識的あるいは無意識的に配慮し行為につなげていると言える。しかしながら私たちの現場は、意識障害や人工呼吸器装着などでコミュニケーションが困難な患者が多い。クリティカルケア看護師は、相手からのフィードバックが得られにくい状況の中で、何をどのように捉え、何を考えながら他者にかかわり、ケアしているのだろうか。本セッションでは他者をケアする日常的な側面、特に看護師が日々意識せずとも（当たり前のように）実践している日常のかかわりの場面（例えば、コミュニケーション、食事、排泄など）を取り上げ、その行為の中にある倫理的な意味を掘り下げ、考える機会とする。日頃意識されていない倫理的実践を意識化・言語化できれば、今後の意識的な実践につながることが期待できる。COVID-19蔓延の中で、様々な苦悩やジレンマを抱えながら日々看護実践を工夫し継続できたのは、看護師の中にケアの倫理が存在するからこそである。これを踏まえ、このセッションでは、参加者がともに「人が”生きる”うえでの”しあわせ”を目指すこと」について考えを深められるような場を作り、私たちクリティカルケア看護師が自信を持って現場に帰れるような、エールに繋がる時間を共有できればと考えている。

企画担当委員：春名 寛香

テクノロジーの革新は看護界、特に看護教育にとって大きなチャレンジとなりつつあります。わが国の高齢化はますます進展し、多疾患併存の対象者の背景も複雑化し、ケアの場は医療施設に留まらず、地域へと移行しつつあります。看護基礎教育では新型コロナウイルス感染症拡大の時期には臨地実習の機会が縮小され、この影響を受けた看護師の臨床現場におけるリアリティショックが退職の要因のひとつとして懸念されています。対象者を中心とした質の高いケアが求められる中、どの環境においてもperson centered careを体系的に提供する看護教育のシステム構築は喫緊の課題であると考えます。このように複雑かつ著しい変化の中でこれまで蓄積された知識や技術を情報化・データ化し、質の高いケア提供のため、DX（デジタルトランスフォーメーション）やVR（バーチャルリアリティ）などの先端技術が看護教育にどのように活用され、どのようなアウトカムが期待されるのでしょうか。看護基礎教育、継続教育の視点からそう遠くない未来の課題について考えていきたいと思います。

企画担当委員：菅原 美樹

本邦は自然災害が多く、多数傷病者が発生する人為災害、東日本大震災では地震・津波・原子力の複合災害をも経験しています。今後も大規模災害の発生が想定され、重症者に対応するクリティカルケア領域の役割は大きいと考えます。これまでの災害対応経験を踏まえ、レジリエンスを高め、災害への「備え」が必要になります。しかし、クリティカルケア領域（主に集中治療室）における災害への備えが十分ではないという報告もあります。そこで、これまでの災害の体験を踏まえ、本セッションでは個人や病院が被災した経験からBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)をどのようにBCM （Business Continuity Management：事業継続マネジメント）として運用し、”これから”のクリティカルケアに活かすのか、クリティカルケア領域における最善のケア提供に向けてBCMをどのように備え、運用、管理しているかについて議論したいと思います。

企画担当委員：菅原 美樹

クリティカルケア看護には、生命の危機的状況にある患者の回復する力を引き出すために、患者とその家族の声や思いを汲み取り、ケアに反映させるなど、様々な側面から患者の回復と安寧を支える役割がある。しかし、病状の深刻さや鎮静状態など、患者・家族が思いや苦悩を表現し伝えることが困難な場合が多く、対象者の理解は容易ではない。本セッションでは、集中治療を経験した「当事者の声」やその「研究」から浮かび上がる事象を基に、クリティカルケア看護師として「ケアすることの原点」を見直し、重症患者の持てる力を引き出し、患者・家族のニーズ充足に生かすケアのあり方や看護の示唆を得る機会としたい。

企画担当委員：伊藤 真理

2025年に向けて10万人の養成を目標として、特定行為研修制度がスタートしてから8年が経過しました。現在、指定研修機関の増加に伴い、研修修了者の人数も増加傾向にあります。研修制度の開始後、看護や医学系学会等において、特定行為研修をテーマに議論がされてきました。クリティカルケア領域においても特定行為研修修了者の実践活動や病院側の体制の整備などを中心に議論されてきたが、特定行為を実践している看護師の研修修了後の教育的支援やフォロー体制に関しては、手探りの状態であると予測されます。そこで今回はクリティカルケア領域における特定行為研修制度の目指すところを再確認したうえで、特定行為研修修了者の現状と課題に焦点を当て、クリティカルケア領域に必要な教育的支援やフォローアップ体制のあり方についてディスカッションしたいと考えます。

企画担当委員：菅原 美樹

高度実践看護師（APN）とは、専門的な知識ベース、複雑な意志決定能力、実践の拡大に対応出来る臨床上の能力を有する看護師で、修士号が望まれている（国際看護師協会（International　Council of Nurses；ICN））。我が国では各専門領域における高度な看護実践を行い、修士号以上の学修を基盤とする者とし、専門看護師（CNS）とナースプラクティショナー（NP）らが該当する。CNSやNPの臨床現場における活躍はさらに期待されている一方で、それぞれの役割の独自性については十分に認知されていない部分もある。このセッションでは、さまざまな現場で活躍するCNSやNPをパネリストとして迎え、それぞれの実践とその成果を報告していただく。APNの高度な実践とその成果の可視化をはかる中で、それぞれがこれまで積み重ねてきた実践から見えてくるAPNとしてのコンピテンシー、臨床現場に期待されるAPNのあり方を考える機会としたい。

企画担当委員：春名 寛香